ジャパヴィン終末期の華 84~85年 YAMAHA の STシリーズ
1982年の Fender Japan 発足を契機に、国内の Fender系コピーモデルの様相は、大きく様変わりして行きました。特に名称・ロゴ・外観と商標に抵触するものが淘汰の対象とされたことは生々しく写りました。
そんな中で、オリジナルモデルで確固たる牙城を築いていた YAMAHA
からデビューした STシリーズは、その充実度とコスパの高さから驚きを持って迎え入れられたのです。そしてそれは事実上の国産・廉価機種路線の終焉をも示していたに他なりません。事実、STシリーズに続く
RGX シリーズ等の廉価機種は国外製にシフトしていったのですから…
それにしても、先に触れた “充実度” の度合いというのはハンパなものではなく、最廉価機種 ST360 において外観的には上位機種に対して何の遜色も無いという驚くべきものでした。YAMAHA では 70年代の SRシリーズからストラトのコピーモデルをリリースし続けていましたが、STは最後にして決定版! その実像を解剖視点で語っていきましょう!
序章の最後?に書いておきますと、実は STシリーズの仕様は、その前モデルの SR-550S、SR-450S において、ほぼ達成されてしまっています。何が変わったかといえば、ヘッド形状が YAMAHA オリジナルにリデザインされたといえば、先述の事情についてもお察しのとおり。
この個体の出自も中古品でしたが、その入手経緯は突発的かつ楽器店経由でもなく、いささか特異でしたので、最後で述べたいと思います。
それにしても(こればっかり)あの YAMAHA にして何故この時期においても、ラインナップにコピーモデルが必要とされたのか?
私(店主)の中では大きな謎として居座り続けていましたが、ある関係者の方からのご教示で、ようやくその疑問は氷解に向いました。
約束でここに大々的に公表することは控えますが、触りとして、今日のようにネットと通信販売のネットワークが発達してしまった環境では、その必要性を失ってしまったとだけ、書かせていただきます。
コンセプト:
店主の手元にある 1984年版カタログにおける STシリーズの紹介は、膨大な品種でとても掲載には不向きです。そのため専門誌に告知されたシリーズのコンセプトやあらましの広告に代えさせていただきます。
本編ではご紹介できなかった最上位機種の画像もありますね!
ボディ:セン or アガチス or イゲム!? Xピース
Xピースとは何ぞや?というところからになりますが、光にかざすと縦方向に 10か所以上はプライされているようなので、とても数える気にはなれず放棄(爆!)。積層はされていないようなので合板では無さそうですが、単板とは呼べませんね。ランバーコアの方が近いイメージ…
セン(栓)材はおそらくバリエーション中のサンバーストに優先されているでしょうから、この個体はアガチス材またはイゲム材となります。
アガチスについては SG510 の項で触れましたので、ご参照を。それにしても “イゲム材” とは何ぞや?(こればっかり) 初めて聞く樹名です。
そこでネット上の材木屋さんのサイトにて調べさせていただきました。
そこで分かったのは、アガチス材同様に南洋材では珍しい針葉樹で、木目が均一かつ、加工性・乾燥性が良好な木材ということでした。アガチス材に比べて樹脂(ヤニ)が噴き出ないという長所もあるそうです。
YAMAHAは、同社のエレキギター黎明期からカツラ材等の国産材を積極的に採用する特色を発揮していましたが、70年代中期にもタウン材 等、他社のカタログでは先ずお目に掛かれないような材名がプリントされていたことも、強く印象付けられています。あの材の宝庫:マツモクとはまた違った切り口で、材の選定に挑んでいたメーカーなのですね。
ネック:メイプル・ワンピース(のものもある?)
このギターが発売されたのは 84年以降。ということは Fender Japan発足後なので、当然のようにヘッドの形状はオリジナルとは変えられています。あえて新しいデザインではなく、70年代からの SC や SJ を
踏襲させているところが YAMAHA らしさを残していて好印象です。
メイプル・ワンピース(のものもある?)と書いたのは、個体によってヘッド部の張り出しを継いだものと、そうでないもの(ワンピース)が実際に見られたためです。まぁこの部分にプライがあっても、音質的な影響は皆無と思いますが、気分的にどうのといった感じでしょうか?
これは私(店主)の憶測ですが、ネックに関しては ST シリーズ共通で生産されていたのではないでしょうか?もちろんプライのあるネックが下位機種に充てられていたのは当然として、本数的な調整で上位機種用のネックが充当(転用)されていたことは、十分に考えられますね。
さてこのヘッド部の特徴は他にもありまして、ひとつは埋め木(コアプラグ)の先端が鋭角的なところ。これは SRからの継承で、プラグ自体の加工ではなく、ナットからのカーブ加工(段差の部分)の影響です。
もうひとつは、ヘッドからネックに移る部分の処置にかなりエッジを持たせていること。ヴィンテージのストラト(画像右端)は面取りが大きくかなり丸みを帯びた仕上げになっていますが、それと比べるとエッジラインがはっきりして、かなりエラが張ったような印象を受けますね。
まぁここは解釈が二通りできて、ひとつは形状的な個性。もうひとつは工程の簡略化ですね。どちらも本質的に大した問題ではありませんが…
そうそう、このヘッド裏面にシリアルナンバーと、Made in Japan の刻印があるのですね。ジャパンヴィンテージ最末期の貴重な記録です。
ペグ:ブッシュ式クルーソンタイプ
最下位機種の ST-360 においても、上位機種同様のクルーソンタイプが装備されているという仕様に、先ずは拍手を贈りたいと思います。
他社製品であれば、お決まりの “亀ペグ” であったことでしょう!
ここに妥協が無かったことは大きいですね。文句なしに格好いいです。
ただ流石にゴトー(ガット)製までは届かなかったようで、アジア製の可能性もあります。性能的にはまぁまぁのところでしょうか(笑)。
ピックアップ:シングルコイル・Aタイプ
最下位機種の ST-360 が Aタイプ。上位機種に向って B → C と上がって行く、あまり見慣れない序列です。大した問題ではありませんが…
この Aタイプというのは、カタログ解説によると 70年代後半から主流となっている、クリアー&トレブリーなシングルボビントーンを狙った設定とのことです。ついでに ST-400 の Bタイプは、心地よく枯れてウォームな、あの伝統的なシングルボビントーンを追及とのこと。
いわゆる、モダンとヴィンテージトーンの違いということですね。
外観的には同じアルニコポールピースで見分けがつきにくいのですが、
よく見ると Aタイプはフラットポールピースなので、区別できます。
比較のため Bタイプを確認すると、スタガードポールピースです。
全タイプをアルニコで統一。アンダーポールピースのセラミックマグネット方式を採用していないのは、このシリーズの拘りとも言えますね。
個人的には “ライトゲージ派” なのでフラットの方が調整し易いです。
セレクタースイッチ:ナローピッチで 5-Way~あの頃に欲しかった…
画像は ST-400R のピックガード裏面からですが、スイッチはシリーズ共通で同じ形状です。
オリジナルと同様にスタンダードピッチでも良さそうですが、何故かこのシリーズではナローピッチで通しています。SS-300 にも共通採用されていますね。
Greco SE-600 の項でも書きましたが、ナローピッチ 5-Way にするために手間も費用もかけたのが、まるで徒労のように見えてしまいます。
もちろん先ず数年の時間差があって、このスイッチとてパーツ分売を依頼しても入手が確約されたものではありませんから、直結の比較はできないのは分かっていても、つい恨み言になってしまいます(苦笑)。
ブリッジサドル:オリジナルに迫るプレスサドルは上出来!
STシリーズの母体となった SRシリーズは、76年の登場時から81年までの間、ナローピッチの10.5mm幅のサドルでした。
82年以降にヴィンテージ感を高めるためのマイナーチェンジが施され、11.3mmのオリジナル同様のピッチとなりました。
このとき、メッキもクロームからニッケルに変更されています。
STシリーズの下位機種は基本的にその仕様を継承していますが、SRの時点でブリッジプレートとイナーシャブロックがセパレート化されていたかは、検証できていません。※STシリーズはセパレートです。
ただしイナーシャブロックは、鉄製ではなくダイキャスト製です。
その他①:指板の R(Radius・曲率)と、ネックポケットの深さ
国産のストラト系ギターは、コピーモデルの時代から指板の Rがオリジナルより緩められており、弾き比べても真っ先に違いを感じるところのひとつでした。
数値で挙げれば、オリジナルがR184mm、国産の多くが R241 というところでしょうか。
この STシリーズでは何と R184mm が採用されていることに驚かされます。あの “丸太感” が、お手頃価格で味わえるのもニクイところ。
相反する難点とすれば、ハイフレットでチョーキングやベンドを行った際に、音詰まりが生じてしまうことでしょう。費用をかけてコンパウンド・ラディアスという曲率を変えるカスタマイズも行えますが、ここは織り込み済みで、このまま楽しんでしまう方が気楽かもしれませんね。
画像から分かることを書き加えてしまうと、ネックポケットは 60年代の深いタイプを採用しているようで、それが浅い 50年代のストラトのように、ボディと指板面との段差が大きい状態にはなっていません。
“ヴィンテージ・ドンズバ” より、ちょっと緩いところでしょうか?
※指板曲率(Radius≒ラジアス)
・7-1/4(7.25) inch ≒ 184mm
・9-1/2(9.5) inch ≒ 241mm
その他②:エルボーコンター・ウエストコンター 見事なり!
トップ&バック共に、ダイナミックなコンター加工が施されています。
ヴィンテージのオリジナルでは手加工の部位であり、工作方法や年式も相まって個体差の幅も相当にありますが、STシリーズではNCルーターによってバラつきが抑えられて、全モデルに同様の施工があるのもありがたいところですね。細かく見るとコンターは深く、かなりエッジがはっきりと施工されているのが分かります。黎明期のオリジナルでは全体に丸みを帯びた仕上げが施されていたので、それがはっきりとしたエッジに変わった 57年頃をプロトタイプにしているのかもしれません。
強いて難を言えば、エルボーコンターが、かなり後ろに寄っていることでしょうか?始点がブリッジプレートの先端あたり。終点がストラップピンとあたりだと自然な位置のような気がします。
その他③:フィニッシュは薄めの塗膜
ジャパンヴィンテージの廉価機種といえば、厚さ 1mmに達するかと思うほどのポリエステル塗装がトレードマークでしたが、このシリーズでは全体に “薄い被膜が貼り付いている” という塩梅の、薄い塗装が特徴的です。もちろんラッカー塗装ではありませんが、ポリエステル塗装よりはウレタン塗装に近い感じです。あまり頑丈ではなく、ぶつけると剥がれてしまうほど。このギターでも、打痕であちこちに木地が見えてしまっています。まぁ薄いことは楽器としての鳴りには良いのでしょう。ただしこれら打痕は、前オーナー様によるものです。
その他④:フレット摺り合わせと指板
この個体を入手時からローポジションに偏摩耗が見られましたので、フレットの摺り合わせを一回だけ行っています。おそらく国産のギターでオリジナル同様のラジアスで摺り合わせしたのは、初めてに近かったかもしれません。きちっと仕上げましたので、まだまだ活躍できます!
比較資料①:YAMAHA STシリーズのラインナップ
・ST-360:ボディ:セン、アガチス、イゲム
ネック:メイプル
指板:型番末尾のMはメイプル指板、Rはローズウッド指板
ピックアップ:シングルボビン Aタイプ×3
ピックガード:プライなし一枚もの、11点止め
コントロール: 1Vol. 2Tone
スイッチ: 5ポジション
トレモロユニット:トラディショナルタイプ
サドル:スチールプレスタイプ 11.3mmピッチ
ハードウェア:ニッケルメッキ仕上げ
カラー:サンバースト・ホワイト・ブラック
※ローズウッド指板のモデルは60年代風ですが、ピックガードは
プライなし一枚ものなので、印象・雰囲気はやや異なります。
・ST-400:基本仕様は ST-360 と共通のため、相違点のみ記載
ピックアップ:シングルボビン Bタイプ×3
ピックガード:3プライ、11点止め
カラー:サンバースト・ホワイト・ブラック* に加えて
キャンディートーンレッド、シルバーグレイ*
メタリックブラック*
*はピックガードアセンブリがブラックパーツ
・ST-500:基本仕様は ST-400 と共通のため、相違点のみ記載
ボディ:アルダー
・ST-600:基本仕様は ST-500 と共通のため、相違点のみ記載
ピックアップ:シングルボビン Cタイプ×3
・ST-800:基本仕様は ST-600 と共通のため、相違点のみ記載
トレモロユニット:オリジナルファインチューニング付
※ネックヘッド部にロッキングナット装備
・ST-1000:基本仕様は ST-800 と共通のため、相違点のみ記載
トレモロユニット:最高級オリジナルロック式
比較資料②:YAMAHA SRシリーズの最終モデル → 1983年版
この翌年に STシリーズが発足されることから、SRシリーズの最末期と
STシリーズの下位機種とは仕様の点で多くの共通点が見い出せます。
というよりは、ローズウッド指板仕様の追加とヘッドシェイプの変更、カラーバリエーション以外は、ほぼ同一の内容と言ってよいでしょう。
・SR-550S:ボディ:アルダー
ネック:メイプル(Fender スモールヘッドシェイプ)
指板:メイプル(ローズウッド指板仕様はなし)
ペグ:ブッシュ式クルーソンタイプ
ピックアップ:シングルボビン オールドトーン×3
ピックガード:プライなし一枚もの、11点止め
コントロール: 1Vol. 2Tone
スイッチ: 5ポジション
トレモロユニット:トラディショナルタイプ
サドル:スチールプレスタイプ 11.3mmピッチ
ハードウェア:ニッケルメッキ仕上げ
カラー:サンバースト・ブラウンサンバースト
メタリックレッド
・SR-450S:ボディ:セン(栓)
ネック:メイプル(Fender スモールヘッドシェイプ)
指板:メイプル(ローズウッド指板仕様はなし)
ペグ:ブッシュ式クルーソンタイプ
ピックアップ:シングルボビン クリスタルトーン×3
ピックガード:プライなし一枚もの、11点止め
コントロール: 1Vol. 2Tone
スイッチ: 5ポジション
トレモロユニット:トラディショナルタイプ
サドル:スチールプレスタイプ 11.3mmピッチ
ハードウェア:ニッケルメッキ仕上げ
カラー:サンバースト・ナチュラル・ブラック
店主評(というか単なる思い出話):
入手したのは 1997年だったと記憶しています。場所は、あの中野サンプラザの中野通りを挟んで向かいの路上商でした。文字どおり、ゴザを敷いた上に並べられていたのです!中野駅で下車して勤め先に戻る途中に、私はよく中古レコード店に立ち寄ったものでしたが、その店の近くで路上商はゴザを拡げており、その上の片隅にホコリまみれで置かれていたのです。当初はヒヤカシで値段を問うたところ、あまりの価格に正常な判断を失い(苦笑)、気が付けば代金を支払っていました。
さて問題は、私が勤め先への帰路にあったことです。取引先に行ったはずなのに、薄汚れた(実際はかなり汚れた)エレキギターをぶら下げて戻るとは何事ぞ!となるのは目に見えています。そこで窮余の一策で路上商から新聞紙をもらい、先ずギターを包んでぶらさげて、バスにも乗らず徒歩で勤め先に戻りました。到着するなり社用車のガレージの最奥にある、タイヤや工具が積んである棚の上に置いて、その日は普通に帰宅しました。後日自家用車で出勤の際に持ち帰ったわけですが、その間に幾度となく様子を見に(無くなってはいないか?)ガレージを往復していたわけですから、怪しいと思った同僚がいたかもしれませんね。
その「もの凄く汚れたエレキギター」は、清掃~整備を経てこうしてご紹介できる程度にはきれいになっていますから、ギター的には幸せ者だと思います。私にとっても衝動買いにしてはハズレを引かなかったことで、同様に幸せ者と言えるでしょう。もったいなくも私は、このギターを「ブラッキー」と呼んで愛用しております。あのお方のトレードマークになっていた名器を彷彿とさせるに他なりませんが、重量は 3.45kg(アーム別)。こちらも軽すぎずしっかり鳴ってくれるのと、意外にも
Fender 感を体感させてもらえるという想定外の役割も担っています。
いつまでも手元の相棒であって欲しいと願っています。 2026 April 26
参考資料:YAMAHA カタログ
・Electric Guitar & Bass '84 Line Up → STシリーズ
・Electric Guitar & Bass '76~'83 Line Up → SRシリーズ
・世界の有用樹種7800種:中川木材産業株式会社サイト