主流とは微妙なスタンス?70年代 Aria ProⅡの LSシリーズ
店主が Gibson Les Paul を入手するまでメインで使用し続けていたのが、おそらく1976~77年製と思われる Aria ProⅡ LS-600 です。
レプリカと言えるほどのコピーモデルが各社から競作されたのは、80年代に入ってから(厳密には78年頃から)で、それまでは形だけ似せたコピーモデルの充実度が、徐々に上がって行くような傾向でした。
年代的にはギブソン社からラージサイズのハムバッカーを搭載した Les
Paul Standard が復刻・発売された直後だけに、ヴィンテージモデルよりはそちらの方にコピー度が寄っているというのも時代ならでは。
何せオリジナルは、楽器店のショーウインドゥ越しに30万円以上という、当時の中・高校生ではとても手が出せない高嶺の花でしたから。
この個体は中古品でしたが、店頭で試奏してから購入したので、納得の内容でした。市場をデッドコピー機のラインナップが席巻する少し前の年代ですが、音的な完成度には既に到達していたように思います。
これは後の時代のものと弾き比べた印象ですが、パーツの仕様・形状を除けば、楽器として遜色ないのでは?当時の特徴が色濃く出ているところも散見されますので、解剖視点でご紹介するのも楽しいと思います。
重量も 4.1kg と、重すぎない程度に手応えありというところですね。
スペック:
店主の手元にある 1978年版のカタログに概ね準拠しているようですが
それよりも古いため相違点もあるようです。順に点検してみましょう。
ボディ:メイプル削り出しトップ、マホガニーバック
ネック:メイプル
指板:エボニー
ピックアップ:EXTRA-Ⅰ×2
コントロール: 2Vol. 2Tone
スイッチ: 3ポジション
カラー:チェリーサンバースト
ブラウンサンバースト
バイオリンフィニッシュ
アンティックレッド
ゴールド
ボディ:メイプルトップ、マホガニーバック
トップはおそらく3ピース。当時の再生産レスポールに倣っています。
バックのマホガニーも単板のように見えるのですが、プライされた箇所がはっきりしません。ただ再生産レスポールに見られる “パンケーキ・ラミネイト” については、コピーされていないのが特徴的です。
カラー(塗色)は言うまでもなくアンティックレッドですね。この時代のサンバーストはバックまでサンバーストが普通でしたが、このカラーの場合バックは単色だったのが、店主の好みでありがたかったです。
ネック:マホガニー3ピース
1978年版のカタログでは「メイプルネック」と記載されていますが、この個体はマホガニーネックです。再生産レスポールがこの頃にメイプルネックに仕様変更されていますから、このモデルにはまだ反映されていなかったのでしょう。ヘッド形状はヴィンテージのスモールヘッドシェイプに、ナットの裏側にはボリュートといった中庸的な仕様で、オリジナルの変遷には無かった形状です。個人的にはオリジナルのラージヘッドも好きだったので、そのコピーでも良かったのですが…
指板も「エボニー」と記載されていますが、ローズウッドのようです。
ちなみにシリアルナンバーの刻印が未だされておらず、ロッドカバーの止めネジも3点止め。→ カタログでは2点止めになっています。
ペグ:MC-45C
ペグはグローバーを模した MC-45C。このペグは他社製品にも採用されていましたが、画期的なトルク調整方式が特徴でした。ただし専用の調整レンチを紛失してしまうと大事なので、こうして保管しています。
画像にもありますとおり、フレットはバインディングに被さって有効長いっぱいに拡げられた “オーバーバインディング” で、演奏性は抜群。
店主がこのモデルを選んだ理由のひとつでもあります。本家ギブソン製でも、リフレットしない限りこの性能は得られませんからね。
ピックアップ:EXTRA-Ⅰ
左がパーツカタログ、右が1978年版カタログからの抜粋です。
典型的な日本版 DiMarzio Super Distortion で抵抗値はやや上回っており3マグネット仕様で更なるパワーを狙っていることが分かります。
一点オリジナルより先行しているところと言えば、フロントとリアとでピッチをキャリブレーションしているところですね。つまりフロント用はナローピッチ、リア用はワイドピッチで、これでパワーにもポジション別の調整が加わっていたら 10年先取りの仕様だったことでしょう。
ちなみに供給元は、仕様からも啓陽と思われます。
ブリッジ:BG-28C、テイルピース:TG-15C
ギブソン社のナッシュビルタイプをベースに、日本製ならではのアレンジ(指板のRに合わせた湾曲形状)が効いています。
当時の海外ミュージシャンでも
これに交換している方がおられたほど人気を博したようです。
テイルピースにはこれといった特徴はみられませんが、どちらもラインナップがゴールドとクローム。
後年ヴィンテージのデッドコピー全盛期にはニッケルメッキ一色となってしまいますから、ここにも時代の一端を窺い知れると思います。
その他①:ネックジョイント部
マツモクお得意の “ボルト&グルー併用方式” で、比類なき強度のネックジョイントが頼もしいです。今日までひび割れひとつありません!
ちなみに右側の画像は、ほぼ同時期の富士弦製(Greco)。こちらは通称 “2ダボ方式” で、ジョイント部の両側に丸棒2本を打ち込んだ、独自の強固なジョイント方法。それにしてもピックアップのキャビティがやたら大きいですね!エスカッションのネジ穴がマジギリです(笑)。
その他②:カーブドトップの形状とジャックプレート
意外にもグラマラスな成型がされていて、ヴィンテージモデルとはひと味違ったトップです。
申し訳ありませんが当時のオリジナルよりは豊かな曲面です。
これもオリジナルとは形状が異なりますが、金属製ジャックプレートも頑強で頼もしいです。
※ノブは傷んでいたため、私の好みでソーサーノブに交換しました。
その他③:当時流行のサッシフレーム付ハードケース
純正品ではありませんが、当時絶大な人気があった “サッシフレーム付ハードケース” が寝床です。こいつの頑強さは筋金入りで、運搬中にぶつけた時の涙が出るような痛さは決して忘れられません。ちなみに製造は東洋楽器で、錠の裏面に奥ゆかしく刻印があります。この画像の方が、カーブドトップの豊かさがはっきり視認できるかもしれませんね。
その他④:ピックガード
ピックガードは板材からの切り出しではなく、キャスティングというプラ成型品です。画像は修理品でこのギターのものではありませんが、ゲートという樹脂の注入跡がはっきり出ていたので採用しました。ゲート跡以外にも、テカりがある、エッジのRが全体に大きい等の、キャスティングならではの特徴があります。どちらが良いかはお好みでしかありませんが、あえてヴィンテージモデルへの拘りがあるとすれば、板材からの切り出しの方でしょうか?
その他⑤:ボディシェイプが変?@少し似ていない…
当時の Aria ProⅡ LSシリーズ は、オリジナルのボディシェイプと何処か違うと良く言われたものでした。店主の撮影した画像だとあまり特徴が出ていないのですが、上掲のカタログ写真が一番分かりやすいと思います。向って左側のストラップピン辺りの、ラウンドショルダー形状とでも言うのでしょうか?カーブのさじ加減の微妙さというか…
それは僅かなもので、ご覧のとおりケースへの収納にも支障しません。
ちなみに同じマツモク製の Westminster も同じシェイプでしたね。
この “@少し似ていない…” シェイプは、80年代初頭の DiMarzio を搭載しまくったシリーズまでは続いていたように記憶しています(笑)。
店主評:
YAMAHA SG-510 の時と同様に、思い出のギターを蔵出しして点検・清掃を兼ねて撮影も行ったものです。製造から約半世紀を経たとは思えないほどの状態に、改めて驚かされました。何せ70年代に楽器店で羨望のまなざしで眺めた50年代の名器達は、僅か20年で凄まじいエイジングを起こしていましたから、塗料の進化というかポリエステル塗装の封印力というのは、響きの良し悪しは別として正に別格の耐久性です。
ハード(ウェア)的には工作方法に劇的な変化というか革新が起きた時期で、コンピュータ制御によるNCルーター加工とそれまでの従来工法のものとでは、細部の仕上がりに相当な相違点を見い出すことができます。エレキギターの場合には、特に正確さを要求されるネックジョイント部とキャビティの加工には顕著に現れていると思います。
ご紹介した LS-600 が生産された頃は、工作方法が岐路に差し掛かった時期とはいえ製作技術的には円熟に達した感があって、使い込んだ割にはポットやスイッチ等の消耗品は別としても、何処にも何の不具合も生じていません。今となっては入手困難となった木材も、当時は当たり前のようにふんだんに流通していましたから、その中で楽器用に厳選された木材は、今や価格以上の貴重品となってしまっています。
そういううんちくをかみしめながら、いつの間にか先が見え始めた人生の友として大切に扱っていきたいと考えています。 2026 Mar. 15
参考資料:Aria ProⅡ カタログ
・Vol.Ⅶ 1978年版
・Accessories(パーツカタログ) 発行年記載なし → おそらく同年代
・1980年ニューラインナップ・ディマジオパワードシリーズ