本当は「悠久たる愉しみの時空」としたかった(笑)。キザかな?
書いていて何となくヤラしいタイトルに思えなくもありませんが、店主の短くも儚いプライベートな時間を、気に入ったギターをカスタマイズして悦に入っている様を表わしてみました。とても純粋ですね(笑)。
1.YAMAHA RGX-112JX #QX19123 1990年代製
YAMAHAがミドルクラス以下のラインナップを台湾製にシフトした直後の製品ではないかと思います。
RGX というラインナップでも最下位のモデルですが、当時最先端の流行であった Floyd Rose タイプ(をアレンジした)トレモロユニットは非採用で、
オーソドックスな6点式シンクロナイズドトレモロユニットが装備されています。しかしこれが幸いして、発売から30年以上が経過した今日であっても、パーツ類のリプレイスメントに不自由しない環境にあるとは、何とも皮肉な顛末であると言わざるを得ません。
というわけで、店主の “悠久たる愉しみ” の初回をこのギターに捧げて
お気に入りのギターにアレンジして行きたいと思います。
<課題:ピックアップのシールドと、コイルタップバランサーの増設>
<テーマ:一万円以内でできるだけ…>
このギターは、素の状態(ノーメンテナンス)で手にした時のバランスやグリップが(私にとって)好印象だったので、差し当たり最初から大きなモデファイは考えないことにして、清掃・整備と最低限のパーツ交換でまとめてみたいと思います。パーツ予算も一万円以内に留めます。
但し補修を含めた手間ひまには、時間をかけてじっくり取り組みます。
<ピックアップ:シングルコイル編>
課題に沿って、先ずはノーマルをメンテナンスしてみます。ところがギターを分解してみたら、ピックアップ裏側に貼り付けられたフェライトマグネットが接着剤の劣化でポロリ…(苦笑)。こんなところから補修が始まるのかと少々気が遠くなりかけましたが、ならばノイズレスに挑んでやろうじゃないかと、ムクムクと闘志が沸き起こりました。
ノイズレスと書いてしまいましたが、シングルコイル・ピックアップなので完全は無理。「ローノイズ化」の方が正しい表現ですね。
先ずは接着剤の除去と、ポールピースのマグネット接触面の清掃から開始します。(画像上)
ボビンやワイヤーの皮膜を侵す可能性がありますので、溶剤は使用しません。スクレイパーを使用して根気よく剥がします。概ね剥がれたら、無水エタノールを綿棒に付けて、できる限りワックスや油分を拭き取るようにして乾燥させます。すぐに乾燥しますので、ポールピースにだけ導電塗料を塗布します。これはポールピースにアースを落とす目的と、錆止めの二つの目的があります。筆よりも竹串の方が塗りやすいです。(画像下)
ボビンには既に保護テープ(アセテート製)が巻いてありましたので、銅箔テープを直に巻くことができます。10mm巾にカットして、このボビンの場合、15cmでちょうど一周させられました。店主の場合、少しセンターを外したところで重ね合わせて、小さめに上下2ポイントはんだ付けします。(画像上)
次にポールピースにアースを落とすため、細く切った銅箔テープを中央に貼り、先ずボビン側をはんだ付け。続いてインレット側に錫メッキ線をからげてはんだ付け。こうすることで両端をしっかり固定できます。理由は、無水エタノールで拭いたとはいえボビン面は残留ワックスで銅箔テープの粘着力が落ちていることをサポートするためです。出来上がった時は問題無くても、しばらくして銅箔テープが剥がれて接触不良が起きることは、経験値からも明白なためです。(画像下)
ボビンが出来上がったら、次はマグネットです。こちら側にも接着剤とワックスが付着していたため、丁寧に除去します。
無水エタノールで拭いてから向きと方向(極性)を確認し、プラ板片でスペーサーを作って四隅に瞬間接着剤で固定します。これは導電塗料と銅箔テープで凸凹になったボビン面に、水平にマグネットをセットするための技です。今回は 0.3mm厚を使いました。
スペーサーが固着したら、ボビンにマグネットを接着して完成です。
この部位の接着にはエポキシ系接着剤を使用しています。
出来上がった状態で再度ピックアップの導通確認とシールドとの絶縁をチェックします。
リバースワインディングですので、ポールピース同士がくっつき、配線の出る向き(黒白)が反対で正解。この時点では未だ配線がオリジナルのままです。
配線を2芯シールド線に交換して、晴れてシングルコイルの方は完成です。2芯シールド線にしておかないと、シリーズやパラレル配線にした時に配線がノイズに無防備なことで、せっかくシールドしたピックアップの効果を半減させてしまいます。
ここは面倒でもしっかり対策しておきましょう。収縮チューブによる色分けで、組み込んだ後でも分かるようにしておきます。
<ピックアップ:ハムバッカー編>
至って普通のハムバッカーと思いきや、なかなかの曲者でございます。
双方のコイルには個別に保護テープが巻かれており保護はされてはいますが、組み合わせた状態で何も巻かれていないため凄く武骨な印象を受けます。
ノーマルでは単芯のシングルコンダクター仕様でしたが、シングルコイルの方がせっかくのリバース・ペアのため、ここはせめてコイルタップくらいはしたいもの。
かと言って、せっかくワックス含浸されたボビンをバラしてコンダクターケーブルを付け換えるのも如何なものかと考えながら、しげしげとピックアップを眺めていると、先ほどぼやいたテープ巻きされていない仕様のため、コイル同士の接続部がむき出し状態であることを発見!ピックアップをバラさずに、ここからコイルタップを取ってしまえという、乱暴な結論にたどり着きました。
タップ線には細めの単芯シールド線を使用し、芯線だけをボビンの端子にはんだ付けします。網線側はサーキット側のグラウンドの方に接続すれば、シールド効果は維持できます。タップ用のシールド線は、あつらえたようにあったベースプレートの「引き出し線穴」を利用して外へ出すことに成功しました。めでたしめでたし(笑)。
<ペグ交換:Gotoh マグナムロック編>
テーマで述べたとおり、予算(工費を除く部品代)は一万円以内と定めてた中で最も高額な部品となりましたが、このギターの性能を決定づける重要な位置づけにありますので、ここは堅実な製品を投入します。
ギターの仕様の中でも不可解だったのが、このペグの設定。何で廉価版(通称:亀ペグ)にしたのかが分かりません。ピックアップキャビティまでシールドするのなら、同じ廉価版でもペグをロトマティックタイプにしてもらった方が、ロックタイプへのリプレイスメントに対してもずっと交換が楽だったのですが… なんてぼやいていても仕方がないので交換作業に入りますが、ここで重大なご忠告をひとつ。
文章ばかりで申し訳ないのですが、どうもネックを上級機種と共通に生産されていたようで、ペグ穴も10mmと “亀ペグ” にしては大径です。
そこでブッシュ調整されており、この大穴に合わせたものが使用されているのですが、緩い箇所については接着剤が併用されておりました。
なので、裏側からブッシュ抜きの治具を当ててハンマーで叩きますと、
ブッシュに表板が貼り付いたまま剥がれる危険性(悲劇)があります。
ハンマーで軽く叩いて抜けなければ接着の可能性がありますので、ここはご自分ではなさらずに、リペアを依頼するようにしてください。
無事にブッシュを抜き終えてもまだ苦行は続きます(苦笑)。
今度は12か所のネジ穴をラミンの丸棒をカットして丁寧に埋める作業です。Fender の F-Key でも同様ですが、いつやってもこの作業は忍耐を要しますね。
出来たら黒でタッチアップ!
この状態で、ペグの選定を行います。機能・形状は決まっているのですが、新しく開けるネジ穴が埋めた箇所と被らないことが理想です。
検討の結果、Gotoh SG360-MG-07-L6 が、シャーラー・タイプの真横ネジ穴の形状で、埋めたネジ穴と被らないことを確認!
先ず1弦と5弦にペグを仮止めしてガイドの角材をクランプで固定します。何故「仮止め」なのかと言いますと、Gotoh のペグ側にも動き止めの凸起が付いており、この時点で強く締めてしまうとネック側に凹が付いて位置が決まってしまうのを避けるためです。未だ微調整の余地は残しておきましょうね。
そうそう、何故6弦ではなく5弦にしたかというと、このギターの場合
6弦のねじ止め部にボリュートが近いことで、緩やかな曲面になり掛かっていたためです。5弦であれば平面なので確実に直線が出せます。
仮固定した両ペグのネジ穴をマーキングします。店主の場合は2.8mm径のドリル刃で軽くさらい(画像左)、更にそのセンターのマーキング(画像右)を行います。注意点として2.8mmで深く掘り過ぎるとネジが効かなくなってしまいますから、ほんの位置決め程度に留めておくことが肝心です。この下穴をもとに2つのペグを確実に固定し、表側のナットも締めておきます。
1弦と5弦のペグをビス止めできたら、再び角材をクランプでガイドさせ、6弦以外のペグを同じ要領で固定して行きます。
このタイプのペグは直線が出しやすいので、揃ったラインになるように慎重に作業します。
そして最後に6弦のペグを取り付けて、ペグ交換は完了です。
先述のとおり、6弦の取付面はボリュートの関係で緩い曲面になっていますので、ラインが歪まないように気を付けます。
<トレモロユニットの分解・清掃と謎のスタッド穴>
説明不要と思いますが、画像左が清掃前。右が清掃後です。
ネジ類は交換しましたが、特にサドルを前後させるネジのうち1~4弦用は長すぎて弦を通す穴に被ってしまうため、全て15mm長に統一してあります。こうしてもオクターブ補正には支障ないようです。
アクセントとして、イモネジを含むサドル調整ネジ一式は、黒メッキのネジを選定しました。清掃と併せて精悍な雰囲気を味わえます。
ちなみにスプリングは、全てオリジナルを磨いて再使用しています。
ボディからトレモロユニットを外したところですが、分かりますか?1弦と6弦に相当するスタッド穴だけ、白い樹脂製スペーサーがはめ込まれています。
トレモロユニットの動きを安定させる効果を狙ったものでしょうか?「セミ2点支持式」なんて呼称を付けたくなってしまいます。スペーサーの高さは 5~6mmくらいですが、これを入れる穴の底は平面で通常のドリルでは無理。
深さも揃っていなければならず、見た目以上に手間と精度が必要な行程で施工されています。ちなみに他の4つは普通の穴ですが、しっかり面取りされていますね。こういった目に見えない工程にも手を抜かないというか、基本遵守が徹底されているところにとても好感を持てました。
※分かりにくいかもしれませんが YAMAHAさんの施工についてです。
<ワイヤリング①:S-S-H を H-S-H 風に>
フィニッシュはワイアリングです。※ラグ板に一点アース
ストラトのピックガードアセンブリでたまにお目にかけている、「S-S-H を H-S-H 風に」というお題で進めることにしました。その前に導電塗料塗布で厳重にシールドを済ませます。
トーンポットをプルアップさせると、
1.フロント+ミドルのシリーズ(直列)ハムキャンセル
2.ミドルのみ
3.ミドルのみ
4.ミドル+リアのコイルタップパラレル(並列)ハムキャンセル
5.リアハムバッカー 当たり前ですがハムキャンセル
ちなみにノーマルだと
1.フロントのみ
2.フロント+ミドルのパラレル(並列)ハムキャンセル
3.ミドルのみ
4.ミドル+リアのコイルタップパラレル(並列)ハムキャンセル
5.リアハムバッカー 当たり前ですがハムキャンセル
という並びになって、特にフロントの音が太く厚くなるのが魅力です。
ストラトのアセンブリでも好評をいただいておりますので、S-S-H のギターを所有の方は、ぜひお試しください。
<ワイヤリング②:コイルタップバランサー>
上記の配線でも実用上十分なのですが、是非リアハムバッカーのコイルタップも加えておきたいということで、もうひと捻りしてみました。
スイッチでタップするのはありふれている?というので、コイルタップを無段階調節できるバランサーを採り入れてみました。具体的にはトーンの先(ジャック方向)に、ボリュームと等間隔でポット(A500kΩ)を増設します。この位置や間隔は単に店主の好みであって、別にこのとおりで無くても問題ありません。性能には影響ありません。
配線自体は難しいものではなく、タップ線からの分岐を A500kΩの2番端子に接続し、1番端子からグラウンド(アース)に接続するだけです。分岐というのは 5-Wayスイッチに接続したタップ線を指します。
ここで捻っているのは、ポットを分解して3番端子と抵抗体の境をカットしていることです。こうすることで、フルにした時はコイルタップの影響を完全に遮断できるのです。無段階に変化するタップサウンドはリアハムバッカーの「音の量感をコントロール」できるので、なかなか味のある音作りを楽しむことができるようになりました。
<その他>
フレットの状態は良好でしたので、表面研磨による清掃で十分したが、軽いネック痩せが生じており指板の側面に凸凹ができ掛かっていて、これが気になったのでヤスリでの修正処置を行いました。
我が国は寒暖の差が激しく湿度の変化も大きいため、材が適切なシーズニングを受けていても動いてしまう場合が少なくありません。
適切な処置をすることで快適な演奏性を保つことができますので、同じような症状が見られた場合にはご相談ください。
<そして完成。大満足!>
業務の合間に細々と進めていましたので牛歩もよいところでしたが、完成したギターを前にご満悦です。
そりゃぁ少し大きめのボディにミディアムスケールの短めネック。スタイルにも好き嫌いはあるでしょうけれど、抱え心地やバランス、演奏性についても想定以上だったので、及第点をあげちゃいます!ローノイズ化の効果もてき面で、ノーマルのピックアップでここまで良くなるとは思いませんでした。良くなるという表現では漠然としてしまいますが、サウンドの周りからノイズを低減させたことで、シングルコイルピックアップのクリアな音像が浮かび上がってくると表現すればよいでしょうか?
外観については冒頭の写真とあまり変わっていないですね(笑)。
このギターについてはリプレイスしないで、しばらくこのまま使い続けてみることにします。トレモロユニットの効きも十分。チューニングの安定には、やはりマグナムロックの性能に負うところが大きいですね。
でも忘れてはならないのは、ナット溝の潤滑を始めとする各部位の調整やメンテナンス。これを並行して行うことが、最も大切なのです。