有終のエントリーモデル:異彩の華 YAMAHA SG-510
YAMAHA SG-510 が発表されたのは、確か1983年の終わり頃だったと記憶しています。定価 80,000円の SG-800S から下位の機種が続かなかったことで、もう高級路線のラインナップに統一か?と、思い始めた頃でした。そして登場した SG-510 はこれまでの下位機種に見られた仕様からも一線を画した、正に異彩づくめの内容に満ちていました。
エントリーモデル故に、ムック本での紹介も最小限に留められていましたが、私(店主)の好むところもあって少々語ってみたいと思います。
SG-510 というギター:
先ず驚かされたのは、SG-2000 が登場した1976年以降の標準仕様だった「メイプルトップ」が外されたということでした。つまり一種類のボディ材と一種類のネック材という組み合わせは、SG-175 や SG-90の時代以来ということで、これは何かあるぞ?という興味をそそられるのに十分でした。実際に手にしてみても、デザインこそ YAMAHA SG の系譜ではありましたが、いろいろと独自の特徴を持った、たいへん楽しめるギターであることを実感できた次第です。
<仕様>
・ネック/ヘッド:ナトー、24 3/4インチ(約614mm)
ミディアムスケール 22フレット、254R
・指板:ローズウッド
・ボディ:アガチス
・ネックセット:セットネック
・ピックアップ:ハムバッカー×2
・ペグ:オリジナルロトマティック
・ブリッジ/テイルピース:ダイキャスト製
・コントロール:ボリューム×2、トーン×2、3Wayトグルスイッチ
ネック材のナトーはニャトーとも呼ばれ、マホガニー材と近似する外観と特性を持つことから、他の YAMAHA の下位機種にも採用されている比較的ポピュラーな材です。SG-510 においてもマホガニー材を採用すべきところ、コストダウンでのナトー材という見方もできます。
ただしナトー材はクラシックギターのネック(トラスロッドが無い!)
にも採用されるくらい、信頼できる材であることは間違いありません。
指板のローズウッド材は、説明不要なくらいスタンダードですね。
ただし近年はワシントン条約で取引が規制されたことで入手困難な材となってしまい、隔世の感があります。検体の SG-510 では木目が分からないくらい真っ黒なので、染色されている可能性も否めません。
真っ黒とはいえ、エボニーの黒さとか木目の緻密さはありませんので。
ボディ材のアガチスは、ナトー材と並んで他の YAMAHA の下位機種ではお馴染みですね。アガチスは南洋スギ科の大木で、エレキギターの材としては珍しい針葉樹。マホガニー材とは似ても似つかない材ではあるのですが、その響きの良さからか、YAMAHA ではボディ材(メイプルトップのバック)として多く採用されているところです。
私が調べた範囲では、SG-2000 が登場した1976年以降、ネック材にナトーを用いた機種は見られませんでした。ボディ材としてはベースのSBシリーズのエントリーモデルに見られるくらいです。一方ボディ材のアガチスは、SG-500 や LS-380 といったエントリーモデルのメイプルトップとの組み合わせに多用されていましたが、アガチス単体としての使用例は見つけられませんでした。SG-510 の異彩の一端です。
そこへいくと凄いのが、あの Westminster(マツモク工業)でした。
ナトー材のネックはレスポールのコピーモデルに。アガチス材のボディは、単体でストラトのコピーモデルに使われていました。それもナチュラル・フィニッシュまで存在していたのですから、まったく脱帽です。
さすが前例ありまくり。「材の宝庫」マツモクだけのことはあります。
ヘッドとネックを見てみましょう:
形状こそ YAMAHA SG の系譜上にありますが、SG-510 独自の仕様にまとめられています。他の上位機種との類似点は少ないですね。
1.SG-800、SG-600 同様に、ヘッド外周のバインディングなし。
2.これも初のトップにツキ板なし。うっすらと木地が見えます。
3.ペグも初の汎用品。ペグノブも初のシャーラー形状を採用。
4.YAMAHA ロゴとフラワーポットは、インレイではなくプリント。
5.ナット裏のボリュートなし。スカーフジョイントか?
6.オーバーバインディングフレットとバインディングは従来どおり。
7.これもエントリーモデルの定石で、ドットポジションマーク。
ボディを見てみましょう:
こちらも SG-510 独自の仕様にまとめられています。
1.シンメトリ SGの系譜では初のコントロールに近接したスイッチ。
2.スイッチの移設に伴うコントロール配置とジャック位置の変更。
3.上記に伴うコントロールキャビティの大形化。→ 比較画像参照
4.ノン・ピックガード仕様。外観・演奏上での大きな特徴となる。
従来ではトグルスイッチの辺りにリア・ピックアップのボリュームが配置されていましたので、それが後退したことで反対の並びに変更されています。ちょうど Greco MRシリーズ の並びに倣っていますね。
アウトプット・ジャックはボディトップに存続されていますが、コントロールの後退に伴って、よりエンド方向に移設されています。
配置変更に伴いコントロール周りのデザインが大きく変わっているのですが、不自然に見せないバランス感は流石と言うほかありません。
余談ですが、名器 ES-335TD と ES-175D がそのような対比ですね。
一連の集約化でコントロールキャビティはより拡大されていますが、そのことがボディの軽量化に多少貢献しているのではないかと思います。
ノン・ピックガードについては、デザインと演奏性の両見地から好みが分かれるところかもしれませんが、SG-510 が発売された 1984年当時は未だ純正パーツとしての入手も可能だったでしょうから、任意装着という判断もあったのかもしれませんね。
パーツを見てみましょう:
こちらにも SG-510 独自の仕様が見られます。
1.コントロールノブは SJ や BB(ベース)等との共通部品に変更。
2.YAMAHAの伝統だった、ポインター金具は非装備。
3.ブリッジ&テイルピースに初の汎用品(ゴトー製?)を採用。
4.ピックアップに初のフェライトマグネット・オープン仕様を採用。
コントロールノブは配置が変わったこともあって、より落ち着いたデザインを採用したのかもしれません。ポインター金具は同ノブの SJ では付いていますので、ここは省略と見ましょう。白眉はブリッジ&テイルピースで、汎用規格の採用には驚かされました。後述しますが、カスタマイズ的にはこの方がありがたい仕様です。ピックアップについては、フェライト(セラミック)マグネットでカバー無しのオープン仕様。
コストダウン色の強い体裁ですが、しっかりコイルタップの端子は残されているので、バイサウンドへのカスタマイズは可能となっています。
直流抵抗値は 8Ω前後で、タップは 4Ω前後。シンメトリカルですね。
細部を見てみましょう:
こちらも SG-510 独自の仕様にまとめられています。
1.ジョイントは堅実なボックスジョイント。木ネジ補強は非採用。
2.トラスロッドの調整部も、従来の方式からは変更されている。
ジョイント部は画像のとおりで、セットネック SG での伝統であった木ネジでの補強は行われていません。とても丁寧に施工されています。
ディープ・ジョイント的指向を思わせる、意味深なザグリがあります。
ピックアップのキャビティは、限界いっぱいまで拡大したというか、これだけのサイズであれば、レギュラーハムバッカーであればどれを選んでも問題なく収まるようにも思えます。トラスロッドの調整部については、どちらかといえば廉価品に多く見られる仕様ですが、この方式が劣っているというわけではありません。ただこれまでの YAMAHA SG の系譜では見られなかったというだけです。あくまでも私(店主)の所感ですが、これらの施工方法は某社製品に似ているなぁ?と感じた次第。
これからは、店主の私物 SG-510 についての所感。
従来の YAMAHA SG とはボディ構造と材が異なるためか、“生鳴り” の違いを真っ先に感じました。が、これはこれで心地よい響きを持っていること。重量もストラトと同じくらいな程々さに好感が持てます。
これといった欠点は見い出せませんが、要注意点として木ネジが錆びやすいことが挙げられます。こまめにチェックしないと、中で錆びついて木ネジ折損という事態になりかねません。YAMAHA ギターのブロンズ色の木ネジは入手困難なため、近似色のステンレス製木ネジを販売できないか、検討中です。発売が決まったら、トップページで発表します。
お勧めのカスタマイズはこれ!:
カスタマイズ的な見地では、従来の YAMAHA SG と比較して格段にやり易い点を多く見いだせるのが、SG-510 ならではと思います。
1.ブリッジ&テイルピースが汎用規格(Gibson仕様)であること。
2.コントロールキャビティが深く大きく、アセンブリの変更に有利。
3.大きくなった配線穴を活かしてバイサウンドは如何?
前者は、例えばブリッジを質量があってサドルの可動範囲が広いナッシュビルタイプにするとか、反対にテイルピースを軽量のアルミ製にして響きを変えてみるとかが、考えられます。汎用規格ならではですね。
後者は、その広さを活かしてプリアンプ搭載と電池内蔵などできるように思います。いずれもボディ加工なく元に戻せる範囲で行えば、結果が思惑に反しても、元に戻してまた考え直すことが楽しみに繋がります。
最も簡単で効果的なのは、ピックアップのコンダクターケーブルを2芯シールド線に、トーンポットをスイッチ付に交換することで、バイサウンド(コイルタップ)を得ることでしょう。これは今日でも可能です。
※当工房でも加工承ります!
ひとつ残念に思ったのが、ピックアップの搭載方法に伝統の “3点式”
を継承してしまったことですね。これで寸法の合ったエスカッションに交換しない限り、ピックアップのリプレイスメントは難しい作業のまま残されてしまっています。従来の YAMAHA SG と異なり、配線の穴径が大きいことで太いコンダクターケーブルでも問題なく使えるだけに、惜しいことだと思います。これも改善策を見い出したいですね。
私(店主)なりのカスタマイズができたら、また続編でご紹介します。
2025 Sept. 30