変だぁ~⁉ テレもどき:Westminster TE250Iと遊ぼう!
1970年代中頃に存在した「Westminster」というブランドをご存知でしょうか? あの Greco の弟ブランドという位置づけでありましたが、製造は当時の Aria proⅡ を生産していたマツモク工業が担っておりましたので、仕様の類似はむしろそちら(Aria)であったという面白い現象が見られたのも、当時ならではですね(笑)。
さて Greco の弟ブランドというだけあって、そのラインナップは定価 4万円を超える製品が最上級機種というコスパの猛者ぞろいでした。
近年の廉価機種は海外生産が常で、その仕様やルックスも材を除けば上級機種に引けを取りません(安価でも格好悪ければ売れない)が、この時代は全て国産という制限(足かせ?)の中、どこまでコスパを実現するかというところが悩みどころで、価格を抑えるために多少のルックスはごめんなさいというのがまかり通ってしまう世界でもありました。
ただ「Westminster」の名誉のためあえて申し上げると、ネックの品質(プライ数以外)とフレッティングの正確さは上級機種と全く同等。
まぁ元々ネックに使われる材(メイプル・ナトー等)は厳選されたものが前提だし、フレットもセッティングされた機械で加工されるのでさもありなんと言ったところですが、生産から半世紀近くが経とうとしていることを忘れさせるネックは、さすがマツモク!の一言に尽きます。
TE250I というギター:
この当時のお約束どおり、製品名だけで仕様と価格がほぼ想定できるというありがたい内容を有しています。あえて書きますと、
TE → テレキャスター(のコピーモデル)
250 → 定価 25,000円(メーカー希望小売価格という文言も無い時代)
I → 塗色がアイボリー
といった具合で、仕様の細部以外はだいたい分かっちゃいます。
2.5万円というだけでかなりのお値ごろ感ですが、Westminsterにおける事実上の最廉価機種でもありました。正にボトムライン!恐るべし…
ここまでですと、TE250I って最下位のチープなテレキャスじゃんで終わってしまうのですが、そうではありません。手にして分かる、カタログには未記載の驚くべき(私くらいか?)特徴を有しているのです。
1.ミディアムスケール(24 3/4インチ 624mm)
2.22フレット
3.0フレット(初年度仕様だけ?)
これって重要なスペックだと思いますけれどねぇ(苦笑)。
つまり Fender Japan TLM シリーズが製品化される約20年も前に、コピーモデルとはいえ既にミディアムスケールのテレキャスタータイプのギターが存在したことに、店主は驚いているわけです。
これがその外観。言わずもなが “変だぁ~⁉”
いちいち挙げるのも疲れるほどの、ツッコミどころ満載のお姿(笑)。
60's ビザールギターに片足突っ込んでいますね。
先ずネックですが、レギュラースケール(25 1/2インチ)を無理やり転用したのではなかろうかと、思わず邪推したくなってしまいます。
レギュラーとミディアムスケールとでは約20mmの差(当然ですが後者が短い)がありますので、0フレットと22フレットで調整したと。
次に画像では分かりにくいのですが、ボディが薄い!テレキャスターのボディは約45mm厚ですが、これは何と36mm位しかありません。
これぞ真の Thinline! → オヤジギャグにも届かず申し訳ありません。
三番目に機能を集中させたコントロールプレート。トグルスイッチからアウトプットジャックまで、全部詰め込んでの過密させたお姿です。
他機種には流用されていないので、このTE250I のためだけにプレス型を起こしたわけですね。ボディにアウトプットジャックを付ける以上のコスパ戦略があったことを覗わせて興味深いです。
さて、イジリ~:
<課題:2ハムバッカーの、同時コイルタップとパラレル切り換え>
ノーマルのまま、ざっとメンテナンスして弾いてはみましたが、やはりハードウェアのチープさが露骨に音に現れるのは否めません。密集したコントロールプレートも使い難いし…ということで、この辺りを何とかすれば、素敵なミディアムスケールになるのでは?という淡い期待を胸に、モデファイを構想しました。ルックスはついでという感じで…
フロントPUのキャビティは、なぜか最初からハムバッカーサイズで施工されていました。不思議です。ただ浅いので、ギブソン等の足の長いタイプは入りません。DiMarzio または Seymour Duncan 辺りから探してみましょう。
当初ブリッジプレートはそのまま使用するつもりでしたが、よく見るとリアPUの向きが逆(苦笑)。ブリッジプレートも交換となりました。嫌な予感がしたので、代替のブリッジプレートにPUを付けた状態で確認すると、キャビティのサイズが合いませんでした。が、不幸中の幸いと言いますか、ひと回りくらい拡げれば治まることが分かって解決。
そのブリッジプレートですが、このギターがトップローディング方式。つまり弦を裏通ししないタイプのため、それができるタイプを選びました。サドルは 3-Way ながら段付き加工されている、ある程度オクターブ補正できるタイプを組み合わせました。
元の画像からも、このギターの印象を “変” に見せているのがピックガードの形状と、店主は考えました。そこでオリジナルのテレキャスターをテンプレートにリ・デザインしたのが、下に重ねた今回のものです。まだ保護紙を剥がしていないため、白い部分です。
一足飛びに完成画像です。上がオリジナルのテレキャスターですね。
ほぼ同じサイズながら、ネックとブリッジの位置でミディアムスケール化していることが、お分かりでしょうか? この辺りが Fender Japan TLM シリーズの設計思想と、最も異なる部分だと考えます。ちなみに PUは フロント:Dimarzio PAF Classic、リア:Duncan Little'59。
実質 2ハムバッカーなので、テレギブを彷彿とさせます。
コントロールプレートはスイッチやポットの位置関係も異なるうえ、ジャック穴まで設けられた過密型につき、流用は見送りました。
スタンダードな配置のプレートに、トグルスイッチ用の穴を一つだけ開けました。書けば容易い加工のようですが、鉄製のプレートに 6mm強の穴を正確に開けることは、実際に施工してみると分かりますが、かなりハードな作業です。ドリル先端に少しずつ注油しながら、大学生時代に自動車の板金屋でバイトしたことを思い出しつつ開けました。
遥か昔、この位置のトグルスイッチは “ノーキー・エドワーズのフェイズスイッチ” として象徴的に名をはせたものです。
ちなみに今回のスイッチの役割は、フェイズスイッチではありません。
こうしてみると、ボディの(もの凄い)薄さがよくわかると思います。
コントロールプレートを交換したことでアウトプットジャックを正規の位置に移設しましたが、こんな時に役立つのが “エレクトロソケット”。
違和感なく装着できたでしょう?
最後になりましたが、課題としたトグルスイッチについて解説します。
12P ON-ON-ON というモンスターのようなスイッチで、レア物です。
つまり 6P ON-ON-ON がデュアルになっているわけで、これで2個のピックアップを同時に切り換えることが可能になります。つまり、
画像(右上)の向きだと、シリーズハムバッカー(ノーマル)
センターで、コイルタップ(ハムキャンセルなし)
画像と反対向で、パラレルハムバッカー(ハムキャンセルあり)
となります。欠点といえば、2個同時にしかできないことでしょうか?
個別にはできませんが、使ってみると特に問題は感じませんでした。
理屈や構造はシンプルなのですが、何せ配線が過密になっているため、ワイヤリングの際は、丁寧な作業が必須です。余談ですが店主のようにDiMarzio と Duncan を併用する際は、コンダクターケーブルの色分けがブランドによって異なるため、十分な注意が必要です。私も記憶に頼らずにメモ用紙に大書して、赤ペンでチェック入れながら作業したほどです。もし間違えでもしたら、調べるのもやり直すのも地獄(苦笑)。
店主評:
「サウンドとしては申し分ない」と書きたかったのですが、ちょっとアタック音がミャンミャンするかな?というところが気にはなりました。
これはボディの材質や薄さからくるものではなく、弦がトップローディング方式で張られていることと、ブリッジプレートの材質(鉄板成形)からくるものではないかと、店主は推察しております。
今後の課題としては、先ずブリッジプレートをトップローディングできる厚手のものに交換してみる。それで改善が見られなかったら、オリジナルどおりの裏通しにしてみることを試してみたいと考えております。
何せオリジナルのテレキャスターも、トップローディング方式は 1958~59 年の、僅か一年間くらいの採用で元の裏通しに戻している経緯がありますから、何らかの問題または不評があったのかもしれませんね。
当時と今とでは主流となる弦のゲージも異なって安易な比較はできませんが、トップローディング方式にも弦が張りやすいとか、テンションが弱まることでひとつ上のゲージが張れる等のメリットがあったので、できればこの方式での改善を見られれば検討の甲斐もあることでしょう。
弾き心地としては、ネックのグリップがしっかりがっしりしていることもあって、ミディアムスケールを弾いているという実感が薄いですね。
参考文献:主に用語や年代の確認
・ザ・フェンダー② テレキャスター&アザー・ギターズ
:リットーミュージック刊