リスペクト@ハンドメイドプロジェクト
ー自作エフェクター・温故知新ー
<お願い>
・本稿は「ハンドメイド・プロジェクト」各誌の製作記事が、ほぼ作り
こなせる技量の方を対象とします。よって詳細な説明は行いません。
先ずは製作記事どおりの製作で腕を磨き、経験を積んでください。
・前述の理由で質問はご容赦ください。本稿はボランティアです。
・たとえ私のモデファイが付加されようとも、原案・著作権は著作者
(大塚明先生)にあります。無断での製品化はお断りします。
自作エフェクターは、製作者自らが楽しむためだけに存在します。
<注意事項>
ドリルやはんだごてを始めとする工具を使用しますので、取り扱いには十分注意し、怪我や健康への影響が出ないよう気をつけてください。
本DIY工作について起きた事故や怪我には、Studio楽庵は責任を負いません。自己責任で楽しめる方のみ製作されるよう、お願いいたします。
第二弾:ミニ・ミキサー(ミニ・ミックス)
ハンドメイド・プロジェクト Vol.1&2 より(以降 HMP と略します)
テーマ:インプットマッチングセレクターを両チャンネルに設ける
やること:1.マイク、ギター、キーボード対応の3段切換スイッチ
2.1~2チャンネル共に同機能化する
3.ACアダプタジャックを設ける
第二弾には、HMP Vol.1~2 の双方に製作記事が紹介された「ミニミキサー」にご登場願いました。本当はフォトカプラー物をやりたかったのですが、実際に LED と Cds.受光セル でフォトカプラーを自作しているうちにドツボにはまってしまい、何が良いのやら分からなくなってしまったため、リセットのために中断。過去に何台か製作した名作ミキサーのモデファイ版をご紹介することにしました。
本機は 2in1 のバランスミキサーで、HMP Vol.1 Vol.2 ともにほぼ同じ回路。何が違うかと言いますと、Vol.1 の方がインプットセレクター付で、マイクとインスト(主にキーボード)の切り換えスイッチで入力に合わせて増幅率を変える方式(CH.1のみで CH.2はインスト専用)。
Vol.2 の方は、CH.1 CH.2 共に半固定抵抗(またはボリューム)で無段階に増幅率を変えられる方式となっています。
一見、両チャンネルとも無段階に増幅率が変えられるやつがあればいいだろ?と思いがちですが、それは接続する機器によって増幅率を変える(というより合わせる)必要性、あるいはミキサーをいじった経験があって、Tlim. とかそういうツマミの存在を、貴方がご存知だからです。
ところがそうではない方(ミキシング未経験者 等)に貴方が指示として操作をさせる場合、無段階に合わせるという方法は仇となります。
どれが感度大(増幅率大)かそうではないか、知識として持っていないからです。だからスイッチを「マイクまたはインストに切り換えて!」と明確にしてあげれば、誰にでもやってもらうことができます。
増幅率の微妙な調整を必須とするか、操作の簡便性を優先するかで、どちらのミキサーが貴方に求められているかは、簡単に決められます。
今回は Vol.1 のミキサーをたたき台に、1~2チャンネルともインプットセレクターを設け、それぞれ 3段階(マイク、ギター、インスト)に切り換えられる仕様としました。これによって単に多機能というだけではなく、いろいろな用途に使えるようになりました。先にこれらを書くと長くなりますので、先ずは製作内容の方から入りたいと思います。
ここからは、モデファイについての能書きです。
1.スイッチを DPDT ON-ON-ON に変更して 3択可能とする
私がギターの配線にも多用する方法を応用しました。
DPDT ON-ON-ON は 3択スイッチとして使用できるため、旧来は
ロータリースイッチを必要とした回路を、トグルスイッチで組むこ
とが可能です。そのため Vol.1 では マイク・インスト の 2段階で
あった選択に ギター を加えて 3段階としました。
増幅率にすると、マイク 101倍、ギター 6倍、インスト 2倍。
抵抗値にすると、マイク 100kΩ、ギター 20kΩ、インスト 1kΩと
なります。※増幅率を設定する抵抗器の値です。
2.チャンネル1 チャンネル2 共に同機能とする
HMP Vol.1 の製作記事ではチャンネル1 のみ選択可能であった設
定を、両チャンネル共に選択可能に変更する。
そのためチャンネル2 の回路(増幅率設定部)も 1と同様にする。
※元々同一の回路であるが増幅率 2倍固定のため、そこだけがチャ
ンネル1 と異なって47kΩに設定されていたため。
3.基板のユニバーサル基板化
CH.1 側は増幅率を変更するための抵抗器 1本追加で済みますが、
CH.2 側は CH.1 と同設定にするため、抵抗器 2本の追加が必要と
なります。オリジナルのプリント基板パターンへの変更は少々厳し
いので、変更部を織り込んだユニバーサル基板(蛇の目基板)での
製作としました。でも実際はほぼパターン図に近似したレイアウト
で、追加した抵抗器を立てて配置する等で、乗り切っています。
※私の所有する HMP Vol.1 が初版本のためでしょうか、バグがあっ
て、掲載された本機(ミニミキサー)のパターン図が反転して製版
されていますので、ご注意ください。そのまま移して製作すると、
裏返しのパターンとなります。スキャンして反転させる。
または、反転可能なコピー機で反転コピーするとよいでしょう。
4.ACアダプタジャックの増設
本機もバッテリー電源がベストだと思うのですが、リハ~ライブ本
番ともに使用するとなるとかなり長時間なので、ACアダプタも併
用できるようにしました。そのためパネルレイアウトは当初 Vol.1
のとおりを予定していましたが、ジャック、LED、電池ケースの兼
ね合いからジャック位置を変更。Vol.2 に近いものとなりました。
極性は、私のセットに合わせて“センターマイナス”。逆接続保護用
のダイオードと、デカップリングコンデンサ 47μFと 0.01μFを追
加してあります。※Vol.2 では回路図に織り込み済みです。
5.その他
自身で使用するギター用エフェクターであれば、ケーブルに使用す
るプラグもある程度統一されているので自ずとジャックの仕様(規
格)も決ってくるのですが、本機の場合は何が挿されるか特定でき
ない。例えばカラオケ用のマイクが挿されることだって想定できる
わけで、JIS とか EIA の区別なく安定した接触を確保するために
3か所ともクリフタイプのジャックを採用することにしました。
バッファーの項でも述べましたが、このタイプはジャックをグラウ
ンドにできないため、ラグ端子によるアースを別に設けました。
先述の電源用ダイオードやコンデンサは、このラグ端子に接続して
あります。
※デカップリングコンデンサのうち 0.01μFだけは、推奨されるオ
ペアンプの近くに配置しました。基板写真では未取付状態です。
6.コンデンサについて
製作記事ではカップリングコンデンサにも電解コンデンサが使われ
ていましたが、本機では 1μF にフィルムコンデンサ。4.7μF には
無極性(両極性)電解コンデンサを使用しています。特に高級パー
ツ指向を狙ったわけではなく、製作記事の年代よりむしろ今日の方
がこの手のパーツの種類が増えて、また安価になったためです。
7.機能について
先述の追加機能以外は概ね製作記事どおりに製作しました。
電源スイッチは OUTジャックでプラグを挿すと ONになります。
8.使用した部品について
製作に使用するパーツ類をまとめてみました。
ほぼ写真のとおりですが、グラウンドに使用するラグ板、デカップリングコンデンサ 2種、電源用ダイオードが写っていませんね。
ノブは検討時点では写真のサトーパーツ製を使用するつもりだったのですが、後日パーツボックス内に 1個だけ残ったノブに変更しました。
その他、後日に追加・変更したものは無いと思います。
余談ですが、おっ!今回は某A電子さんで全部そろうぞ。と一瞬喜んだ(秋葉原まで行かずに通販で揃えられるから)のですが、ケースだけは扱い外だったため、結局出かけてブラつき、いろんな物を買ってきてしまいました。必要な部品もあったのでいいんですけれどね(笑)。
常用していた電池ケースですが、何とリード線付の仕様がディスコンに
なっていてピン付(基板装着用)のみ。なにくそ諦めるものかとピンを曲げてリード線をはんだ付けし、収縮チューブで絶縁して強引に仕立て上げました。ここまでやるかは各位でご判断くださいませ(笑)。
9.トグルスイッチ DPDT ON-ON-ON の使い方 他
冒頭にも書きましたが、トグルスイッチ(DPDT ON-ON-ON)を活用し、写真左のような配線で3Wayセレクターとして使用しています。
以前ギターの配線用に購入した同スイッチの中に写真右(の左側)のような製品があって、できあがったギターをテストしたときに想定した切換ができず、大いに焦ったことがありました。つまり “リバース(裏返し)” の構造のため、半回転させようが絶対に意図したとおりにはならず、やむを得ず出来上がった配線を組み直した苦い思い出があります。尤もスイッチを再テストした時点で、配線は全て外しましたけれど…
リバースであってもスイッチとしては正常のため文句の持って行きようが無く、「事前に検品しなかった自分が悪い(これが勉強なんだ)」と自分を納得させるしか方法がありませんでした。
なのでこのスイッチは “教訓用サンプル(他にもある)” として、今日も私の引き出しにしまってあるのを、今回ご披露した次第です。
表題に 他 とあるのは、ジャックに内蔵させたリーク抵抗 1MΩ の付け方が先回のバッファーとやや異なっているためですが、特に意味はありません(気分でやったかも)ので、どちらの方法でも問題ありません。
10.ケースの作図
主な工作方法については Vol.1 の工作編で述べたとおりなので、そちらをご参照ください。
先ずはケース上にスケールを置いて、想定される位置に部品を配置してみます。今回はアウトジャックの位置と DC-IN の増設以外は概ね製作記事どおりなので、その点はあまり悩まずに進めることができます。留意点とすれば、ジャックの仕様がクリフタイプと大柄になっているため、天地と間隔の調整には十分配慮するようにします。特にタカチ製 YMシリーズ は、写真の横手方向に補強のための折り返しが位置しますので、ジャックの配置できる場所は非常に限られます。位置調整に自信のない方は、製作記事どおりのジャックと指定寸法で製作されることをお勧めします。
横着して申し訳ありません。設計して図を掲載するだけの時間が捻出できなかったので、ケースに作図したところへ寸法を記入しました。
Vol.1 の工作編でも述べましたが、油性ペンの作図には限界があって、ペン先の幅でどうしても誤差が生じます。もちろん概ね正しいことが前提なのですが、ポンチ打ちをする際には再計測するとよいでしょう。
近年の製作記事では大きな穴開けに、写真の「ステップドリル(刃)」を推奨する例が見られるようになりました。
もちろん使いこなせばたいへん有用で、私の製作においても欠かせない工具のひとつに挙げられるほど活躍しています。
ただ今回のような小形のアルミケースの場合は特に注意しないと、貫通時の反動が大きく、抜けるときにケースの方を持って行かれて、バリで手を切る危険(知人は縫い傷を負った)がありますことをお忘れなく。
11.配線準備 その1
写真のとおり、基板の方にトグルスイッチとボリュームへの配線を付けておきます。トグルスイッチへは右と左では引き出し位置が異なりますので、それぞれ適した長さにカットします。ボリュームについても、端子1と端子3への配線は交差しますので、長さには注意が必要です。
この写真では ICの電源部にデカップリングコンデンサ 0.01μF が取り付け済みとなっています。ユニバーサル基板の融通が利く利点ですね。
12.配線準備 その2
準備といっても電源部は完成させた状態での撮影です。ごめんなさい。
逆接続防止のダイオードは、写真ではラグ板の裏面です。極性に注意。
アウトプットジャックには電源スイッチの配線がある代わりに、リーク抵抗は装備しません。電池ケースがとにかくぎりぎり収まったという感じなので、レイアウトに自信のない方は電池ケースを止めて、スポンジ等を使用してホールドした方が配線しやすいと思います。
13.配線出来上がり
基板とケースを組み合わせてそれぞれの配線を接続し、完成です。
調整箇所はありません。製作記事では両インプットからの信号ラインはケースへの共通アースで不要ですが、私の作例ではグラウンドラインも必要なのでお忘れなく。一見すると細い線と太い線を使い分けているようにも見えますが、実は被覆の厚さが異なるだけで同じ AWG 24 線を使用しています。細い方の色バリエーションがもっと多ければ、全て細い方に揃えていたと思いますよ。
14.レタリング(機能表示)
出来上がった筐体にダイモテープでレタリングします。筐体が小さくごちゃごちゃ感は否めませんが、少しの色分けで何とかまとめました。
大塚先生の格言どおり、分かっていたつもりでも後で絶対に(機能が)分からなくなる典型的なパターンだと思いますので、ここは面倒でもダイモテープに限らず、何らかの方法での機能表示は習慣づけましょう。
左写真の方が、何となくスパルタンで格好いいのですけれどね(笑)。
インレタ(転写式インスタントレタリング)全盛期には、画材店・文房具店・家電量販店等で比較的容易に入手できましたが、今日では扱い店も減って入手困難となり、隔世の感があります。そんな中でダイモテープが未だ普通に使えるのはありがたい。と思ったら、幅の狭いテープや主流ではない何色かはディスコンとなる情報を耳にしました。嗚呼…
何か着実に(自作界が)追い詰められている感じがして悲しいです。
15.活用例
①ダイナミックマイクと楽器(エレキギター、キーボード)をそれぞれ
挿してミキシング。アンプ1台で弾き語りができます。
ギターアンプの場合、ボーカルの音質はやや粗く聴こえるかもしれま
せん。アンプによって音質(特性)は大きく異なります。
※マイクは変換プラグを用いてアンバランスにする必要があります。
②エレキギター2本。あるいはエレキギターとエレキベースを挿してミ
キシング。昔話ですが練習中にレンタルスタジオのベースアンプが不
調になったことがあり、私のギターアンプに本機を介してベースを挿
し、練習を止めないで乗り切ったことがありました。
PAが故障したときは、マイク2本をギターアンプに挿したことも。
急場のお助け・必需品ですね。持っててよかった(笑)。
③私のオリジナルな使用方法(だと思います)で、エレキギター2本を
挿すのですが、ストラトキャスター(シングルコイルPU)とレス・
ポール(ハムバッカーPU)の場合、PUの出力比というかバランスを
とることで、エフェクターの掛りやアンプのセッティングをある程度
揃えることができます。併せてバッファーアンプの効果もあります。
※ゲイン 6倍固定となります。
④私のオリジナルな使用方法:その2。エレキギター2本を挿すところ
までは同じですが、持ち替え用ギターを繋げっぱなしにできます。
ミキシングはセンターでも可。ギター側のボリュームをゼロにしてお
けば、いちいちシールドを抜いて繋ぎ換える必要が無くなります。
尤もそういうアクションまで見せたいのなら別ですけれどね(笑)。
16.ほぼ参考書どおりです
HMP Vol.1~3 同様に CD-R 化されて販売中の「サウンド・クリエーターのための電気実用講座」という参考書がありますが、このミキサーはオペアンプ回路における応用例を見るうえで最適と思います。
このミキサーを実用品として扱っていただけることが第一ですが、製作の楽しみを深めるうえで現物とマッチした参考書の存在はありがたいです。併せてご一読をお勧めいたします。
さぁ、次回は何を手掛けましょうか?といっても、また 2~3か月後になってしまうと思うのですが、相変わらず私自身が楽しんでおりますので、ライフワーク的に続けられたら最高だと思っています。