リスペクト@ハンドメイドプロジェクト
ー自作エフェクター・温故知新ー
第一弾:ICバッファー(バッファー・デバイダー)の工作編
初回なので、私なりの工作方法について紹介してみたいと思います。
製作方法全般については「ハンドメイドプロジェクト(以降HMP) Vol.1~3」をご参照ください。なおこのコラムは一般的な工作方法の範囲とさせていただき、私が修理や製作で使用する固有の技術や特殊な工具には触れない場合がありますのでご了承ください。
1.ラグ板でオペアンプを使用する
左の写真のようにマスキングテープを貼り、その上から ICソケットを強く押し付けると、ピンの跡が残ります。その跡を千枚通し等でマーキングし、それをガイドにピンバイスで穴開けすれば、IC取付穴の出来上がりです。穴開けには、0.8mmのドリル刃を使用しています。
ソケットを挿して、先ず裏面からロックできるピンに抵抗の余り線等を巻いてはんだ付けしてしまいます。LF356N のように 741系のシングルオペアンプの場合は、1 5 8 ピンが無接続なので分かりやすいです。続いて各端子に接続を行いますが、これにも単線や抵抗の余り線等を活用します。間隔が狭いので各線の接触には十分気を付けます。
部品を実装するとこのようになりました。工作編における注意点としては、プリント基板に対してラグ板の端子は金属の体積が大きいため、やや熱量を必要とすることです。コンデンサ等には適宜ヒートクリップを活用して、焼損を防いでください。
2.ケースのレイアウト(設計)と作図①
ケースの製図は先ず原寸大でケガき、パーツ類をあてがって位置や間隔を確認するようにします。あえて学生時代の手法に戻ってみましたが、下着等の補強に入っていたボール紙を捨てずに役立てていました。
※現在は 5mm方眼紙を使用していますが、白紙の方が見やすいです。
両脇に 1cmほどの余白が設けてありますがこれが重要で、タカチ製ケースの場合はここに下側の補強の折り返し(ビス止めする部分)が当たるので、気付かずに部品配置をしてしまうと後で泣きを見ますよ。
右側の写真は意外に難易度の高い、ケースの傾斜部へのケガき手法で、私は今日でもこの手法で作図しています。板をクランプでケースに固定しそこにスケールを当てるだけですが、かなり正確に作業できます。
留意点としては、元の作図時点で角の “R” 部を見込んでおくこと。
スケールは変えないで同じものを使用しないとずれが生じます。
3.ケースへの作図②
製図した図面をケースに正確に転写します。私は油性マーカーの細書き0.5mmを主に使用していますが、それでもラインの太さがまちまちになって作図に狂いが生じますから、それは織り込み済みでケガきます。
写真左では、中心線が太くなってややずれてしまった例。誤ったラインは消さずに、×印で分かるようにしてあります。
写真右は、私の使用するスケール(15cm)のご紹介です。
上は百均で求めたもので、細密な計測には使用しません。大まかな計測や、マーカーでのライン引き(汚してしまうので)に使用します。
中央は JIS規格のマット仕上げ(ツヤ消し)で、これはギターの弦高測定等に限定して使用します。反射し難いので、撮影時にも登場します。
下は同じ JIS規格ですが、普通の金属面(ツヤあり)のものです。
普段の製図・作図には、もっぱらこれを使用しています。
意外に役立つのが裏面の「寸法規格換算表」で、ミリとインチの換算に活躍します。ここに記載されていることを忘れないようにしています。
4.ポンチ打ち
今日では老眼というハンディも加わって、一段と厳しい工程になってしまいました。若いころから正確にポンチ打ちをしたつもりでもズレることがあったので、面倒でも予備の工程を加えることにしています。
写真左の上部に赤い柄の千枚通しがありますが、これでケースのビニル部にマーキングし、そこにポンチの先を合せて打つようにしています。
※ダイキャストケースの場合はマスキングテープを貼って同工程。
写真右は、ケース裏面からのポンチ打ちの確認です。穴を開け始めてから打ち忘れに気付くと、出来なくはありませんが悲しい思いをします。
5.穴開けミスの防止と修正方法
私のポンチ打ちの次工程は、ドリル刃 1.5mmでの穴開けです。HMPでは 3.2mmからの穴開けを奨励していますが、私の場合は 1.5mm。
「鉄は熱いうちに打て」と言いますが「穴は小さい方が直しやすい」と置き換えれば分かりやすいでしょうか? このまま 3mm等で拡大してもズレは直りませんので、小さいうちに細い丸棒ヤスリで直したい方向に拡大しながら修正すると、比較的楽に対処することができます。
もちろん最初からズレないよう、腕を磨くことが大切ではあります。
私の丸棒ヤスリをいくつか。下の黄色いのはヤスリの目詰まりを掃除する専用ブラシです。特にアルミ材は粘性が高くヤスリの目に絡みやすいので、毎回の清掃を欠かさないようにしています。
昔はアルミ製ケースの穴開け後のバリ取りも面倒でしたが、今ではバリ取り工具や面取りビットを使うと簡単に除去できるようになりました。
6.LEDの明るさを揃える
ループの ON/OFF やデバイダー A-B を判別しやすくするため、赤と緑の LEDを交互に点灯させるようにしてあります。これも 3PDT(9P)が一般化し、特別なスイッチではなくなったことのご利益ですね。
さて LEDは一般的に赤が最も明るく(輝度が高い)、緑は暗い傾向にありますので、これをできるだけ揃えてみるようにします。
先ず緑に使用する抵抗値を暫定的に 820Ωとしてみます。もっと小さくもでき、明るくもなりますが、比例して消費電流も増えてしまうため、1kΩより少し少なめといった程度を落としどころとしておきます。それでも十分明るいですね(笑)。
赤の抵抗値を決めるには、緑を点灯させたままで赤も点灯させ、抵抗値を変えてみるのが簡単です。交互にやっていると分からなくなります。
抵抗値を変えるには、私はポット(ボリューム/可変抵抗器)を併用します。先ず LEDを破損させないため 1kΩの保護抵抗を入れ、それと直列にポット(5kΩ)を接続します。ポットは 1kΩだと小さ過ぎ、10kΩだと大きすぎるため、2kΩか 5kΩのポットが適当でしょう。
ポットを回して大体揃ったところでポットの抵抗値を測ると、ほぼピタリ 1kΩでした。保護抵抗の 1kΩを合せて 2kΩなので、近似値の2.2kΩを赤に使用することにしました。
7.インプットジャックへの配線
当初インプットジャックには普通のマル信製を使うつもりでしたが、本文でも触れたとおりジャック数が多く、各ジャックに目的に応じた特徴を持たせたいと思い、クリフタイプの絶縁ジャックに変更しました。
基板マウント用でピン端子ですが、大きくて長さもあるので線類をしっかり巻き付ければ、確実にはんだ付けできます。
写真左では、プラグを挿さない時にラインをショートさせておく配線。
写真右では、製作記事では基板にレイアウトされていた、インプットのリーク抵抗器 1MΩをジャックマウントさせています。
8.シールド線の採用
ケース内ではインプットジャックから基板(ラグ板)までが「ハイインピーダンス・ライン」なので、ここだけはシールド線を採用しました。
実装してみると極めて短い距離のためご利益は薄そうですが…
ポイントとしては、シールドの網線はインプットジャック側だけの接続で、基板には芯線だけ接続し、基板のグラウンドは別線でアースポイントに落としてあります。左下へ延びているのがシールド線。右上に延びているのが、インプットジャックからアースポイントへのラインです。
写真右は、私がシールド線の網線ほどきに愛用している、歯石除去用の
ニードルです。なんと百均もの。千枚通しとかいろいろ使用してきましたが、これに出会ってからは手放せなくなりました。百均恐るべし。
※歯石除去との併用は一切行っておりません。衛生第一です(笑)。
9.電池ケースの取付
私は基板同様にケースの表側からビス止めする方法を採っています。
ただ電池ケースというのは多くの場合ケース底に、それも電池ケース側からビス止めし、底側からナットで固定するというのが一般的です。
私はできるだけケースの上側だけでまとめることを心がけているため、電池ケースのビス穴に 3mmのタップを立ててねじ切りをし、表側からビス止めしています。このケースの場合、5mm長でぴったりでした。
電池ケースは樹脂製ですが、なかなかしっかりビス止めできます。
最低でも 3mm。余裕があれば、2.8mmと 4mmのタップは持っていると重宝しますよ。反対のダイス(棒にねじ切りをする工具)については、私の場合トレモロアーム用途くらいであまり出番がありません。
10.LEDの固定
LEDの取付方向は、HMPの工作方法にほぼ準拠します。ただ私の場合は 3mmのドリル刃より小径の 2.8mmを多用します。LEDの中には直径 3mmと称しても 3mmに満たないものもあるためです。
2.8mmで開けたら、後はHMPの記述どおりピンセットをリーマー代りにして、ピッタリに調整します。固定にはエポキシ系接着剤(2液混合タイプ)を用いますが、接着剤が無くても挿しただけで自立するくらいの “はまり加減” をマスターしましょう。
写真右は LED取付後の表面です。パネル面保護のため保護ビニルを完全に剥がさず中途でカットしていますが、このカット作業でパネル面を傷つけないよう、細心の注意が必要です。
11.ラグ板による電源と共通アースの配線について
エフェクターの製作例では ACアダプタジャックに全てまとめてしまうケースが多いようですが、今回はラグ板を使って独立させてみました。
写真左はラグ板の表裏で、複数のアース線をまとめるために 2端子を充てています。電源のプラス側にはコンデンサとダイオードを付けますが言うまでもなく極性は十分確認してからはんだ付けします。
写真右はラグ板の取付位置で、インプットジャックと ACアダプタジャックから近い位置で「配線し難くない」場所を選びました。
※ラグ板の採用と取付位置は機材によってケースバイケースのため、
この作例をもって私の工作の定番手法とはしていません。
12.ケース内の配線・実装と使用するワイヤーについて
概ね大塚明先生の解説どおりで、特別な特徴は持たせていません。
配線類はなるべく空中を避け、ケース内面に這わすよう心掛けます。
線材(ワイヤー)の色分けも HMP にほぼ準拠していますが、特にグラウンドや電源の極性を例外的な色で配線してしまうと、後でメンテナンスや加工・変更するときに自分でも分からなくなってしまいます。
私はワイヤーに Belden#8503、シールド線に Belden#8216 を多用はしていますが、こればかりを使う訳ではなく、耐熱被覆線 AWG22、24、26 を各色ストックして適宜使い分けしています。このほかに被覆付の単線、はだかの錫メッキ線を何種類かを使用しています。
この作例では、LEDの配線を AWG26の耐熱被覆線で統一しています。
※色別の消費のちがいが激しいため、セットでの購入はしていません。
13.ミリ規格のボリュームポットにインチ規格のノブを付ける
私が今回ゲインコントロールに使用したボリュームポットは、アルプス電気製でしたが、用意したノブがインチ規格のミニチキンノブであったため、シャフトの径が合わず(アルプス製がミリ規格で細い)このまま使えないことはありませんが、偏芯したり緩みやすかったりするのでぴったりに適合させることにします。またアルプス製はローレットのスリ割りシャフトでもあるので、それもソリッドシャフト並みにします。
写真左のように、先ずシャフトのスリ割り部にぴったり合うプラ材を探します。なんと食パン等のビニルを締める部品の厚さが適合しました。
それをニッパーでピッタリのサイズにカットして、挟み込みます。
写真右のように、その上から 6mm径用の収縮チューブでカバーし、ヒートガンで収縮させます。これでジャストサイズに適合し、スリ割りにもプラ片が挟まっているためネジを締めてもシャフトが変形しません。
注意点として、収縮チューブは薄手のものを使うこと。厚手の高級仕様だと太くなりすぎて、今度はノブが入らなくなってしまいます。
注意点をもうひとつ。取付前にこの処置をすると、ナットがシャフトを通らなくなる場合があります。収縮チューブの厚さは本当に微妙なのでできれば事前にお試しください。「収縮はヒートガンで」と書いたのもそのためで、ライターを常用されている方はケース表面を傷める場合がありますので、十分ご注意ください。
<注意事項>
ドリルやはんだごてを始めとする工具を使用しますので、取り扱いには十分注意し、怪我や健康への影響が出ないよう気をつけてください。
本DIY工作について起きた事故や怪我には、Studio楽庵は責任を負いません。自己責任で楽しめる方のみ製作されるよう、お願いいたします。